大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)80号 判決 1967年12月08日

上告人

高橋卯之助

右代理人

吉田賢三

成瀬芳之助

被上告人

三井信雄

右補助参加人

株式会社日本相互銀行

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉田賢三、同成瀬芳之助の上之告理由第一、二点について。

債権者が、一定の契約から生ずる債権を担保するために、特定の金額(被担保債権額)について抵当権を設定し、かつ当該契約から右被担保債権額をこえる債権を有している場合においては、その抵当物件の第三取得者は、その債権者に対し、その被担保債権額を弁済(ないし債権者の受領拒絶による弁済供託)するときでも、債権者との間に合意が成立し、または代価弁済(民法三七七条)滌除(民法三七八条以下)等の方法によるものでないかぎり、当然には抵当物件の被担保債権が消滅しないしその抵当権設定登記請求権を有するものではない。けだし、その債権者にとつては、前記契約にもとづく債権の一部の弁済にすぎず、抵当権を消滅させるいわれはないからである。そして、この理由は、その抵当権が根抵当権であろうと、債権者の抵当権の実行後であろうと異なることはない。

ところで、原判決が認定した事実は、その挙示の証拠により肯認することができるところ、右事実によると、上告人は、株式会社日本相互銀行に対し所論の競売申立債権額(元金二〇万円および二年分の遅延利息、競売申立費用)を被上告人に代位弁済する旨を申し入れたが、同銀行は、当時の相互掛金契約等にもとづく債務の残金四一万二、五〇〇円と遅延利息金額の弁済を要求して、右申入を拒絶したため、上告人は、昭和三〇年六月一〇日これを弁済供託したというにすぎないのであるから、本件建物に対する所論根抵当権の被担保債権が消滅したものといえないことは、前段説示したところから明らかである。

したがつて、本件根抵当権は存続しかつその実行は有効であるとした原判決の判断は相当であり、原判決には、所論のような違法はない。

所論中には、所論の代位弁済により抵当権の消滅したことを前提として、原判決の判断が不当である旨を云々する部分があるが、この部分の論旨は、すべて前提を欠き、失当として排斥を免れない。

所論は、すべて、採用しがたい。

同第三点一について。

前記上告理由第一、二点について判断をなしたとおり、本件根抵当権は存続しているものと解すべきであるから、所論は、前提を欠き、排斥を免れない。

同三点二について。

本件第一、二審判決および一件記録によれば、被上告人の請求の原因の要旨は、上告人の本件調停の債務不履行により本件建物の所有権の移転登記が履行不能になつたことによる損害賠償を求めているものであるから、所論のような事情は、その損害額の算定にあたつてしんしやくすべき事由にあたらないのみならず、原審において主張されていないところである。したがつて、所論のような事由を考慮しなかつた原判決には違法のかどはなく、また釈明権不行使の違法をいう部分も、採用しがたい。

所論は、結局、排斥を免れない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例